希少種と外来種

注目トピック:カワシンジュガイ


カワシンジュガイ

カワシンジュガイは、札幌市版レッドリスト2016で「絶滅危惧 II 類」に指定されています。イシガイ目カワシンジュガイ科に属する二枚貝です。黒っぽい細長い殻(から)をもち、川に生息する淡水性(たんすいせい)の貝です。
 北海道及び本州に広く分布しますが、水質の悪化や生息地の分断(ぶんだん)などの影響を受けて、数が減少しているといわれています。環境省レッドデータブック2020では絶滅危惧ⅠB類に指定されています。札幌市周辺では、一部の小さな河川で見られますが、数はあまり多くないと思われます。
 よく似た種にコガタカワシンジュガイがいます。コガタカワシンジュガイはおもに道東方面に分布しており、札幌近辺ではさらに稀なため、札幌市版レッドリスト2016ではカワシンジュガイよりも上位の絶滅危惧ⅠB類に指定されています。


カワシンジュガイを探してきました

札幌市内にもカワシンジュガイが生息している川があると聞いて、探しに行ってきました。案内してくれたのは、公益財団法人札幌市公園緑化協会の山口貴司さんです。

写真と文章で取材の様子を紹介(しょうかい)します。動画もあわせてご覧ください。


カワシンジュガイはどこにいる?

カワシンジュガイは、殻の長さが15cm程度にもなる大型の貝です。たくさん集まって群生(ぐんせい)することもあるようで、道内にはカワシンジュガイで川底が真っ黒に見えるような川もあるそうです。
しかし今回探しにいった札幌市内の川では、そこまで群れている場所はなく、なかなか見つかりませんでした。山口さんに見た目の印象などを教えてもらい、水の中に目を凝(こ)らしつつ、ゆっくり川を進みます。

カワシンジュガイ01


カワシンジュガイを発見!

ようやく見つかりました。川の底から突きでています。カワシンジュガイは、水温が夏でも20℃以上にならない冷たい川で、このように川底に突き刺(さ)さるように暮らしています。

カワシンジュガイ02_3

カワシンジュガイ04

カワシンジュガイを観察する

今回は、2個体のカワシンジュガイを見つけました。
カワシンジュガイは、植物プランクトンなど、水中の懸濁物(けんだくぶつ)を食べます。成長がとても遅く、大人になるまでに20年くらいかかることもあるそうです。そのぶん、たいへん長生きです。道東では150歳以上になるカワシンジュガイが見つかっています。成長に時間のかかるカワシンジュガイには、数十年にわたって干上がったり凍(こお)ったりせず、また、護岸(ごがん)や直線化(ちょくせんか)といった人の手が入らない、安定した環境が必要です。

カワシンジュガイ03 カワシンジュガイ05

右側のカワシンジュガイは、観察のために川底から拾(ひろ)い上げた様子です。観察したあとは元の場所に戻しておきました。また自分で砂に潜(もぐ)るので大丈夫だそうです。

すごいぞカワシンジュガイ!

カワシンジュガイとヤマメの関係

 カワシンジュガイの仲間は、繁殖のために魚を利用するという、独特(どくとく)のライフスタイルをもっています。
カワシンジュガイはおもに、ヤマメ(サクラマス)に寄生(きせい)します。まずカワシンジュガイのメスが、自分のエラの中で卵をかえします。産まれてきた幼生(グロキディウム幼生といいます)は、しばらくすると川の水に放出されます。そこに宿主(しゅくしゅ:寄生する相手)であるヤマメがいれば、カワシンジュガイの幼生はヤマメのエラにくっつきます。そして約50~60日間、ヤマメから栄養(えいよう)をとって育ちます。ヤマメのエラで稚貝(ちがい)へと変態(へんたい)すると、エラから離(はな)れます。そして川底に降(お)りて、最初のうちは砂に埋(う)もれて育ちます。
 ちなみにコガタカワシンジュガイは、ヤマメではなくイワナに寄生します。

カワシンジュガイの生活史

もしダムや堰堤(えんてい)のような人工物によって、宿主であるヤマメ(サクラマス)の行き来が妨(さまた)げられてしまうと、カワシンジュガイの幼生が寄生する相手がいなくなってしまいます。いくら子を産(う)んでも、幼生は育つことはできません。カワシンジュガイには、ヤマメが生息できる環境が必要です。

カワシンジュガイはエンジニア?

カワシンジュガイは、他の生きもの生息環境を作り出すことがあります。たとえば、カワシンジュガイが川底にたくさん生息することで、エゾアカガエルが越冬できるということを、斜里町立知床博物館の三浦一輝さんたちが、道東で行った調査研究で明らかにしました(参考文献)。
カワシンジュガイはエンジニア

(イラスト:更科美帆)

 川底に石ころなどがあれば、流れてきた落ち葉が堰(せ)き止められますが、砂地だと葉がひっかることがありません。でもたくさんのカワシンジュガイがいれば、落ち葉が堰き止められて、下流側に身を隠(かく)せる場所ができます。こうした場所でエゾアカガエルが越冬していたのです。きっとカエルだけでなく、いろいろな水生生物(すいせいせいぶつ)が、カワシンジュガイのつくりだした環境を使っていることでしょう。
 他の生物が住める環境を作りだす生物のことを「生態系エンジニア(またはエコシステムエンジニア)」と言います。カワシンジュガイは、川の中の生態系エンジニアなのです。ちなみにエゾアカガエルは、シマフクロウなどたくさんの生きものの餌となる重要な生物です。つまり、カワシンジュガイの存在は、川から森へとつながる生態系を支えているわけです。


減っていくカワシンジュガイ

カワシンジュガイの危機

 カワシンジュガイの仲間は、世界的に数を減らしているようです。成長に時間がかかるので、一旦(いったん)減(へ)ってしまうと、なかなか回復(かいふく)できません。一見たくさんのカワシンジュガイがいる川でも、よくみると小さい個体がほとんどいない場合があるようです。それは、水質の悪化によって稚貝が生き残れないのかもしれませんし、宿主であるヤマメがいないからかもしれません。いずれにせよ、若い個体がいないということは、いつか消滅(しょうめつ)してまう可能性が高いということです。
カワシンジュガイが、ちゃんと世代交代(せだいこうたい)をしながら存続(そんぞく)できるのか、しっかり観察していく必要があります。


川の生きものを調べる”西岡さかな組”!

川の生き物を観察・調査しているグループを紹介しましょう。札幌市豊平区にある西岡公園で活動する「西岡さかな組」です。小学3年生から6年生までのメンバーで活動しています。

さなか組00

「さかな組」という名前ですが、魚だけではなく、カエルや水棲昆虫(すいせいこんちゅう)、水草などさまざまな水辺の生き物を調査しています。もちろんカワシンジュガイも!

さなか組01 さなか組03

さなか組02 さなか組04

みんなでデータを集めたり、それぞれが自分の研究テーマに取り組んだり。1年の終わりには研究成果(せいか)をポスターにまとめ、調査報告会で発表しています。

さなか組05 さなか組06

カワシンジュガイのような生物をまもっていくには、こうした継続的(けいぞくてき)な調査や観察がとても重要です。


参考文献

希少淡水二枚貝カワシンジュガイはエゾアカガエルの越冬地を創出するか?
三浦一樹, 2017, 北海道自然史研究会2016年度大会(要旨集)

『湿地の科学と暮らしー北のウェットランド大全ー』 第10章 底生生物と湿地環境
根岸淳二郎・三浦一輝, 2017, ウェットランドセミナー100回記念出版編集委員会編, 北海道大学出版会




掲載されている記事をご覧いただいた感想などをぜひ、アンケートぺージからお寄せください。